国際金融のトリレンマと人民元の行方

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土居雅紹のコラム。株式、為替、コモディティ相場のトレンドや、今後想定されるシナリオと投資戦略。eワラントはもちろん、他の金融商品を使った投資戦術などをお届けします。

国際金融のトリレンマと人民元の行方 (2015/04/06)

1991年から高成長を続け、2008年のリーマンショックは4兆元(当時のレートで約60兆円)もの巨額の財政支出と金融緩和で乗り切った中国。近年は政治面だけでなく、軍事・経済面でも米国の覇権に公然と挑戦するようになっています。

一方で、中国は共産党一党独裁でありながら米国以上に貧富の差があるという矛盾を抱えています。さらに、米ドルから基軸通貨の地位を奪取すべく、貿易パートナーとの人民元決済拡大やAIIB(アジア投資銀行)設立などを通じて人民元の国際化を目指すとしながらも、日米中心に運営するADB(アジア開発銀行)の最大被支援国であるとともに(2014年末時点)、相変わらず資本移動や金融面での規制を続けています。

外国為替・金融政策には「国際金融のトリレンマ」があり、中国が進めている人民元“改革”の方向性は自ずと限定されてしまいそうです。

国際金融のトリレンマとは?

どの国の政府も、自国の経済を安定的に発展させ、海外からの投資を呼び込み、自国企業が世界で活躍することで国内の雇用を増やし、株価を上げて国富を増加させ、かつ他国の意向に金融政策を左右されない独立性を保ちたいと考えるのが一般的です。もちろん、既得権益の保護、施政者の私腹を肥やす、国内の権力闘争に勝利する、国民の感情やイデオロギーを最優先するといった行動原理で動いている国々もありますが、その分他の何かが犠牲になります。

国際金融のトリレンマとは、通貨・金融政策において重要な政策目標となりうる下記の3つのうち、同時に2つしか満たすことができないというものです。
1.資本移動の自由
2.為替相場の安定(固定相場や米ドルペッグなどを含む)
3.他国の事情や政策から独立した金融政策の実施

1の資本移動の自由があれば、自国企業はどんどん海外に進出することができますし、海外からの投資も呼び込みやすくなります。通貨取引に制限がないことによって、取引が活発になり、各種デリバティブ組成のコストも下がります。また、中国が目指しているSDR(IMFの特別引出権)の構成通貨となるには、自由に取引できる通貨であることが必須の条件といえます。

2の為替相場の安定は、企業がその国で安定的に経済活動を行うために極めて重要な条件です。為替が大きく変動するようになると、企業努力でいくら生産性を向上しても為替変動で簡単に吹き飛んでしまいます。過去の超円高によって日本の主要産業がバタバタと崩壊したのも、海外生産依存度が高い日本企業が現在の円安で苦戦しているのもこのためです。為替が大きく変動する環境でも、数ヶ月から半年程度なら金融商品で為替リスクをヘッジすることができます。しかし、究極的には各企業が、世界各地で現地調達、現地生産、現地販売をすすめる他はありません。

3の金融政策の独立があれば、グローバル経済の変動を金融政策でカバーできる余地ができます。これが使えない場合は、財政政策しか手段がなくなってしまいます。

各国の状況をみると

まず日本ですが、外貨が不足していた第二次大戦後の長期間に亘って、資本移動の自由はなく、為替取引には実需原則がありました。これが1984年に撤廃されるまでは、輸出入代金の決済や海外渡航などの経済活動に使う以外の外国為替取引は認められていなかったのです。その代わり、2の為替相場は安定し、自国の経済事情に合わせた金融政策を実施することができたといえます。 現在は、FXの普及に見られるように資本移動の自由があります。ただ、その代わりに為替相場の安定はありません。リーマンショック後のように欧米が量的緩和に動く中、日銀が独立した金融政策を採れば超円高になります。また、異次元緩和を進めると大幅な為替レートの調整が起こります。今後、仮に120円/米ドル前後で実質的な“擬似米ドルペッグ制”を目指すのであれば、1の資本移動と2の為替相場の安定を採る代わりに、3の独立性がなくなり、米国の金融政策に振り回される度合いが増すことになります。

ユーロ採用国であるギリシャやドイツの状況は、1の資本移動と2の固定相場(単一通貨は究極の固定相場)の代わりに、3の金融政策を完全に放棄している状態です。だからギリシャには財政政策しか残されていないのです。一方で、ユーロ圏全体を一つの国と考えるなら、日本の状況と酷似しています。1の資本移動はありますが、3の独立した金融政策を追求すれば、2の為替相場は大きく変動しますし、逆に対米ドルレートを安定させたければ、3のECBにとっての金融政策の自由度が無くなります。

米国はもっと分かりやすく、米ドル基軸通貨なので1の資本移動の自由があります。3の金融政策は基本的に米国の状況だけで決めるので、2の為替相場の安定はなく、為替レートは実勢に任せています(時々口先介入をやりますが)。

そして現状の中国ですが、現時点では1の資本移動の自由はありません。その代わりに2の為替相場の安定(あるいは管理相場)と3の独立した金融政策があります。

人民元の行方と投資アイデア

中国から発信されているメッセージから推測すると、中国は将来的に人民元を米ドルに代わる決済通貨とし、IMFの通貨ともいえるSDR(特別引出権)の構成通貨として基軸通貨国の特権を獲得するとともに漢・唐以来の版図をもった超大国としての威信を高めたいようです。また、各国から中国への投資を増やすとともに、中国企業が海外で巨大M&Aを進めて先端技術・ブランド・市場を獲得することを推奨しているようでもあります。

しかし、90年代初頭の日本のバブル崩壊と直近の超円高をよく研究しているために、米国の長年の圧力にも拘わらず、急速な人民元高は許容していません、同時に、中国国内への短期資金(ホットマネー)の流入や中国国内の富裕層の資産流出は制限しています。

つまり、独立した金融政策は従来どおり維持しながら、為替相場の安定は残しつつ、資本移動はできるだけ増やすという「国際金融のトリレンマ」の例外に挑戦しているともいえます。

しかしこの折衷案は、中途半端で上手く行かなくなる可能性も残ります。そこで、これから3つのうちどれを捨てることになるか、シナリオを考えてみました。

◎シナリオ1:人民元の完全変動相場制への移行
資本移動の規制を撤廃するとともに金融政策の独立性を維持するのであれば、人民元は変動相場制に移行することになるはずです。米ドル、ユーロ、日本円は変動相場制で、これが人民元が国際化するもっとも現実的な方法といえます。しかし、中国が現在のように大幅な経常黒字を積み上げている状況で変動相場制に移行すると、急激な人民元高となる可能性が高くなります。もちろん中国が“異次元緩和”を行う手段もありますが、すでに不動産バブルが膨れ上がっている中国ではリスクが高過ぎます。

その結果として起こる人民元急騰は、当面の間中国企業の業績を悪化させると予想されます。このシナリオが1-2年程度のうちに実現すると想定するなら、FXなら人民元ロング、eワラントなら満期が長めでレバレッジが小さいハンセン指数プットやハンセン中国株指数プットへの投資が有効と思われます。なお、この試練を経て中国が中長期的に内需型経済への転換に成功すれば、米国の経済覇権への挑戦が現実的なものとなっていくと考えられます。

◎シナリオ2:資本移動の制限を継続
習政権の最優先課題は必ずしも経済発展ではなく、共産党一党独裁の維持と文化大革命以来の権力闘争における勝利であるという見方もあります。この場合は、富裕層(あるいは対立グループ)の資産が海外に流出することを防止するために、今後も資本移動には厳しい制限がかかり続けることなります。この場合、為替相場の安定と独立した金融政策は維持できますが、既に生産拠点としての魅力が薄れている中国への外国からの投資は減少し続けるでしょう。また、中国企業も一旦中国に資金を持ち込むと制限がきつくなるので、海外で稼いだ資金を中国に還流させないようになるはずです。この結果、人民元の国際化は進まずデフレ傾向が顕著になりそうです。一方、対中経常赤字を抱える国々からの圧力によって、いままでのようにゆっくりとしたペースで人民元切り上げを迫られる可能性が高いと思われます。

この場合、中国のデフレと人民元安であおりを受けるのは、中国に巨額の投資を行っている一部の日本企業(商社やメーカー)と、現在の人民元レートが長期間維持されることで競争劣位となっている韓国企業と予想されます。投資の観点からは、中国関連の日本株プットの買い、韓国200種株価指数プットの買いが一案と思われます。

◎シナリオ3:トリレンマに逆らって総採り?
従来の理論がなんであろうと、「中国共産党は優秀なので日米欧とは違う」として、資本取引の自由化を段階的に進めつつ、狭いバンド内での人民元の動きにとどめ、かつ金融政策は日米欧に左右されないこともないとはいえません。この場合、現在以上のペースでの資金流出が続き、見掛けの外貨準備がどうあれ、次第に外貨が枯渇していく可能性があります。そうなると、どこかのタイミングで1994年に行ったような人民元の大幅切り下げという市場ショックが起こる可能性が出てきます。もしこれが起こればアジア通貨危機の再燃ともなりかねないうえに、日本経済も直接・間接的に大きく影響を受けます。

ただ、ショックが起こるとしても数年先となりそうなので、時間価値減少がない金トラッカー、日経マイナス3倍トラッカーをロールしていく方法が有効と思われます。

(念のため付言しますと、上記は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。)
eワラント証券 チーフ・オペレーティング・オフィサー 土居雅紹(どい まさつぐ)


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