ETFの7月アノマリー(2015/06/29)

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土居雅紹のコラム。株式、為替、コモディティ相場のトレンドや、今後想定されるシナリオと投資戦略。eワラントはもちろん、他の金融商品を使った投資戦術などをお届けします。

ETFの7月アノマリー(2015/06/29)

「ETFには7月にアノマリー(理由ははっきりしないもののそうなることが多いという投資に関する特異現象)があって、かなりの確率で儲かる?」という“ETFの7月アノマリー”について、調べてみました。その結果は…

候補1:株価指数連動ETFが株価指数を3月から7月までアウトパフォーム?

一般にファンドマネージャーが運用する投資信託(アクティブ投信)は、ベンチマークとする株価指数よりも良いパフォーマンスを得るのが難しいとされています。これは、数百銘柄も保有する株式ポートフォリオになると必然的に値動きが株価指数に近くなることに加え、投資信託の販売、運用、管理にコストがかかるため、その分投資家にとっての運用パフォーマンスが悪化するからです。こうした考えに基づいて株価指数に“勝つ”ことを諦め、費用を最小化して株価指数に連動するパフォーマンスを目指すタイプの投資信託が株価指数連動投資信託(パッシブ投信)です。もっとも簡単な方法なら株価指数と同様の構成比で構成銘柄すべてに投資していれば、運営コスト分を除けば株価指数とほぼ同じパフォーマンスが得られます。また、株価指数先物を想定元本分購入して満期が来たらロールしていく手法ならさらに投資コストを抑えることができます。

この株価連動投資信託を証券取引所に上場して、販売経費などを抑えて運用するようにしたものが株価指数連動ETFです。理論上、これも株価指数のパフォーマンスから運営コストを引いた分のパフォーマンスが得られることになります。

図1は日経平均に連動するETFのうち資産残高が大きい3銘柄(銘柄コード1320、1321、1330)の取引所終値の平均と日経平均を値動きが分かりやすいように、2001年7月を10000として比較したものです。

これを見ると、わずかですがETF3銘柄の平均(茶線)が日経平均(青線)を上回り、それがだんだん大きくなっていることが分かります。この差額を示したのが図の黄土色の棒グラフです。すると、ETF3銘柄平均と日経平均の差額は、当初はもや~っと増加していたのですが、2007年頃から煙突のように段差が明確になっていることが見てとれます。この期間が4月から7月なので、「ETFの価格が3月にドンと上がって、7月にガクンと下がる」現象を、“ETFの7月アノマリー”と考えている方もいるようです。

doi-20150629-1

候補2:ETFにかつて存在した裁定取引機会が“アノマリー”だった?

ETFは上場商品なので(非上場の投資信託とは異なり)価格は需給で決まります。とはいえ、保有株式の時価から算出された基準価格から大きく乖離すると裁定取引の余地が出てくるので、概ね基準価格に近い価格で取引されています(一般に、取引が多い銘柄は乖離が小さく、取引が少ない銘柄は乖離が大きくなります)。この時、株価指数連動ETFが保有している株式の多くは3月や9月に企業の配当を受取る権利が発生し、6月末頃には実際に確定した配当金をETFが受け取ります。この配当金はETFの基準価格に含まれています。

一方、比較対象となる株価指数には配当金は含まれていません。このため、例えば3月決算の構成銘柄は3月末に配当落ちとなると理論上はその分株価指数が下落することになります。これが3月末にETFの価格が株価指数を“アウトパフォーム”する主因です。ETFの多くは7月に決算があり、実際に受取った配当金を分配金として投資家に分配します。その分ETFの基準価格が下がるので、図1の差額が7月にストンと落ちると言う訳です。ETFの基準価格(ひいては取引価格)が落ちても、その分は分配金として受取っているので、ETFのホルダーには損得はなく、株式の配当落ちと同じようなものです。敢えて差があるとすれば、株式の配当落ちは「支払われるであろう予想配当金の分株価が下がるものと考える」程度の目安であるのに対して、ETFは分配金として基準差額の変動分が確実に支払われるということです。

「じゃあ、アノマリーでもなんでもないじゃない?」

かというと、実はかつては「ほぼ確実に儲かる値動き」が存在していました。それは“3月末の株式の配当落ちの時点では配当金が確定していないので、その90%だけETFの基準価格に反映する”という経理慣行が採用されていたからです。3月末で予想されている配当金と6月頃に支払われる配当金実額はたまに差があるものの、多くの銘柄ではだいたい予想通りになります。仮に配当利回りが2%だとすると、その1割にあたる0.20%が3月から6月にかけてETFの基準価格に順次反映されていったことになります。つまり、3月末にETFを購入して7月に分配金を受取れば、3月末から7月初めの3ヶ月強で、0.20%(年率なら0.8%!)も株価指数をほぼ確実にアウトパフォームできていたことになります。この差は運用のプロにとっては極めて大きな差なので、盛んに利用されていたようです。仮に100億円運用していればその差は2千万円にもなるので使わない手はありません。この経理基準が2007年9月に変更されたので、かつての「3月から7月にかけてのETFの濡れ手に粟の取引」が、“ETFの7月アノマリー”候補の二つ目です。

図2は2007年9月までの日経平均とETF価格の乖離率を平準化したものです。2007年以前はETFが株価指数を“アウトパフォーム”する傾向は認められるものの差がモヤっとしています。これは各構成銘柄の配当支払い額が確定する毎に基準価格に予想金額の90%から実額に修正されていたことと整合性がありそうです。

doi-20150629-2

図3は2007年10月から2015年6月19日までの同じ3銘柄のETFと日経平均の乖離率です。リーマンショック前後などには大きなブレが見られるものの、それ以外は概ね配当権利落ち日の3月末から7月までの乖離率が大きくなり、ETFの分配金が基準価格から控除される7月に乖離が急激に小さくなる、上に凸が並んでいる形状となっています。

doi-20150629-3

候補3:ETFの基準価格と株価指数の差が累積していくアノマリー?

図1から図3までで共通しているのは、ETFと株価指数の乖離がだんだん増えていることです。株式配当が主因だとしても、受取った配当金のほとんどが払い出されるなら次第に株価指数とETFの乖離が増えていくのはおかしく思えます。とすれば「やっぱりETFに投資してれば株価指数よりも儲かる」と考えた方がいて、これを“ETFアノマリー”と呼んでいる可能性もあります。

しかしながら、実はこれは、一部の機関投資家の台所事情によるものといえます。巨大な株式ポートフォリオを保有する機関投資家なら、ETFの構成銘柄と同様の割合で株式を拠出して、ETFの受益証券を受取ると言う買い方ができます。これを使って、3月に配当金受け取りの権利が確定した株式を、4月初めにETFに拠出すれば、6月に通常の株式配当金を手にした上に、7月にETFの分配金がもらえる“配当の二重取り”が可能になります。

とはいえ、厳密な意味で二重取りはできず、7月にもらえるETFの分配の分だけ多く株式を拠出しなければならなくなります。ただ、この時、分配前の基準価格は不変でも、ETFの運営上分配できる配当金の割合が減ります。このため、既存のETFホルダーにとって見ると、分配金が減り、その分基準価格が下がらなくなります。例えば、ETFに巨額の拠出がなければ1万円の基準価格から200円支払われて分配後の基準価格が9800円になるはずだったところが、巨額の株式が加わったために1万円の基準価格から支払う分配金が180円に減り、その分分配後の基準価格が9820円になるようなものです。どちらも総額では1万円で、損得はありません。でも基準価格は3月に株価指数との間で乖離した分ほどは下がらず、結果として7月以降もETFは株価指数を“アウトパフォームする”ように見えるという訳です(実際には株価指数に配当分を考慮すれば、運用コストの分だけ株価指数+配当のパフォーマンス>株価指数連動のETFのパフォーマンス+分配金になるので、アウトパフォームはしていません)。

それでも機関投資家が4月以降にETFに拠出するのは、一部とはいえETFの分配金を手にすることで、株式のキャピタルゲインをインカムゲインとして計上できるようになるからです。そしてこういった事情で取引した機関投資家は、7月が過ぎるとすぐにETFから株式を引き出すことになります。こうして、ETFの価格>株価指数の乖離は累積して大きくなっていくという訳です。

投資に活かすには

「3月末から7月までETFの価格が高い」という現象は、分配金を含めて考えればアノマリーとはいえません。また、かつての予想配当金の90%しかETFの基準価格に計上しないというのは、アノマリーというよりは裁定取引機会でしたが、現時点では使えません。さらに、“ETFは株価指数よりもパフォーマンスが良い”ように見えるのは機関投資家の投資行動による基準価格の上昇に起因するもので、個人投資家にとっての損得はありません。つまり、いわゆる“ETFの7月アノマリー”は投資機会とはなりそうもありません。

一方、図3にあるように、同じ株価指数に連動することを目指すETFであっても、個別の銘柄だけ株価指数から短期間大きく乖離することがあります。これはETFの構成銘柄から算出される基準価格と、需給によって決まる取引価格の乖離が経済ショックなどのなんらかの原因で生じているものと考えられます。そこで、相場が大きく動いたときに、取引が少なめの日経平均連動の(レバレッジ無しの)ETFに思い切った高値の信用取引の売り指値注文を入れて、運よく基準価格よりも高く売れたら即時に(レバレッジ分少ない金額の)5倍レバレッジトラッカーを購入する、あるいは、ETFに思い切った低い価格の買い指値注文をを入れておき、割安に購入できたら即座に(レバレッジ分少ない金額で)マイナス3倍レバレッジトラッカーを購入して、相場が落ち着いたら両方とも手仕舞うという投資戦略も一案と考えられます。

(念のため付言しますと、上記は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。)
eワラント証券 チーフ・オペレーティング・オフィサー 土居雅紹(どい まさつぐ)


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