GW後に気になるギリシャリスクとユーロ相場

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土居雅紹のコラム。株式、為替、コモディティ相場のトレンドや、今後想定されるシナリオと投資戦略。eワラントはもちろん、他の金融商品を使った投資戦術などをお届けします。

GW後に気になるギリシャリスクとユーロ相場 (2015/05/11)

2010年以降のユーロ経済危機のきっかけとなったギリシャ問題に再び注目が集まっています。
欧州連合(EU)、IMF、ヨーロッパ中央銀行(ECB)がギリシャを支援する条件は、財政再建のための増税・公務員の給与引き下げなどの緊縮政策でしたが、反緊縮策を主張するチプラス政権は綱渡りの交渉を続けています。これが再び世界の金融市場の混乱をもたらすことになるのか、EU加盟28カ国の一国だけの問題で止まるのか見方が分かれるところです。

2015年ギリシャ問題のポイントは実は2つ

2015年時点でギリシャ問題が再燃していますが、現時点のポイントは2つ、「ギリシャがユーロから離脱するのか?」、「その場合、再びユーロ経済危機となるのか」に絞られると思われます。
まず、ユーロ圏についてですが、EU加盟28カ国のうちユーロ採用国は19カ国で、EU=ユーロ圏というわけではありません。ユーロ非採用国のうち、イギリスとデンマークは例外的にユーロの採用を求められていません。一方、ハンガリー、ポーランドなど後から加わった国は、将来的にはユーロを採用するものとされています。しかし、ユーロ圏に参加することは独自の金融政策を放棄することを意味します。また、他の参加国に迷惑をかけないためにも、しっかりとした経済運営ができている必要があります。このため、ユーロを採用にあたっては加盟するための基準(収斂基準)があり、物価の安定、財政状態(GDPの3%以内、債務残高はGDPの60%以内)、為替相場の安定、長期金利についての条件を満たす必要があり、新規加盟国はこれを満たせないとユーロを採用する事ができません。

ユーロ圏に裏口から入り、かろうじてユーロ圏に止まったギリシャ

ギリシャは当初この基準が満たせず、1999年1月のユーロ導入から2年遅れて2001年1月からユーロ圏に参加することになりました。ところが、ギリシャのパパンドレウ政権が2009年の総選挙後に、前政権によるデリバティブを使った財政赤字の隠蔽を公表しました。それに前後して欧州統計局からギリシャの経済統計の粉飾を指摘され、2009年時点でGDPの6~8%としていた財政赤字が12.7%と判明しました(その後、13.6%、最終的には15.7%に修正されています)。さらに1998年のユーロ採用申請時の財政赤字もGDP比2.5%ではなく4.6%で収斂基準を満たしていなかったことも分かり、民間格付け機関にギリシャ国債の格付けを投資不適格(ジャンク債)とされ、ギリシャは経済危機に陥りました。
原理原則を言えば、ユーロ圏に加わる条件を満たしていなかったので、ギリシャはユーロから離脱する(させられる)のが筋でした。しかし、当初のユーロ加盟国も完全に基準を満たしていない国もあったこと、ユーロを離脱するルールがなかったこと、2008年の世界金融危機から他のユーロ諸国が立ち直っていなかったことから大混乱となること必至であったため、ギリシャが緊縮増税策を実施する代わりにEU、IMF、IMFの「トロイカ」の支援を受け、ユーロ圏に残留することとなりました。

ギリシャ経済危機からユーロ財政危機へ

独立した通貨を持った国が財政破綻すれば、当然ながらその通貨は暴落します。その結果、輸入品価格が急騰し、高率のインフレとなります。その結果、輸入が激減、代わりに国内製品の需要が増加し、通貨安によって輸出競争力が上がって貿易収支が次第に好転します。国債もデフォルトを宣言してしまえばその後しばらくは借り入れは困難になりますが、少なくとも借金は激減します。また、(ギリシャのように)観光資源が豊富であれば自国通貨が暴落すれば観光客が増加し、それに伴って海外からの投資も徐々に増えることが期待されます。こうして経済が再生していきます。
一方、ユーロ圏のように競争力の強いドイツやオランダなどと、競争力の弱いスペイン、イタリア、ギリシャなどが同じ通貨を使っていると、為替レートによる調整ができなくなります。すると、競争力の弱い国では産業が衰退し、不況が長期化、失業率が高止まりし、地方自治体や国の財政基盤も弱まっていきます。これがユーロ圏の現状です。
加えて、2010年のギリシャ経済危機時点では、EUの周縁諸国(ギリシャ、スペイン、イタリア、ポルトガル、アイルランドなど)は不動産バブル崩壊によって金融システムに不安を抱えていました。このため、ギリシャ問題はユーロ財政危機につながりました。

2015年ギリシャ問題3つのシナリオと投資アイデア

2015年1月のギリシャの総選挙では、かつてトロイカに“押し付けられた”緊縮策(全労働人口の25%を占めていた公務員の削減、年金削減、民営化、増税)に反対する急進左派連合が圧勝して、チプラス政権が誕生しました。チプラス政権は、緊縮策を取りやめる一方、債務削減と追加融資を求め、ユーロ圏各国と協議を続けています。
ギリシャはユーロ離脱をちらつかせていますが、ユーロ各国の状況はユーロ財政危機当時とは異なり、それほど切迫した状況ではありません。このためこの“チキンレース”の今後のシナリオを考えてみました。

シナリオ1)ギリシャがユーロ圏を離脱して“新ドラクマ”を採用、ユーロ危機再燃

ギリシャが独自通貨を持てば実態よりも強い通貨であるユーロによって不況にあえぐこともなく、国内政策について財政政策だけでなく、金融政策を柔軟に活用する余地が出てきます。また、そもそもユーロに入る基準を満たしていなかったのだから、EU内の非ユーロ採用国になり、経済を立て直してから再びユーロ圏に復帰するべきという原則論もありえます。
しかし、弱い通貨(ドラクマ)から強くて信頼性の高い通貨(ユーロ)への切り替えは容易でも、その逆は極めて困難です。
まず、ユーロ圏で利用されるユーロ紙幣は各国共通で印刷場所の略号が違う程度なので、“ギリシャのユーロ紙幣”というものはありません。このためギリシャ国内のユーロ紙幣を新しい通貨(仮に新ドラクマとします)に強制的に切り替えることはできません。
一方、ギリシャ国内にある銀行預金を新ドラクマに切り替えるには、預金封鎖を行って一旦全銀行口座を凍結し、暴落する事がほぼ確実な新ドラクマに強制的に切り替えられることになるでしょう。また第二次大戦後の日本のように預金封鎖に加えて、財産税を課して富裕層の預金を取り上げる可能性もあります。こういった流れが明白なため、ユーロ離脱を問う国民投票が行われると決まった途端にギリシャ中の銀行で取り付け騒ぎがおきるはずです。その結果、ギリシャの銀行は支払い資金のユーロが枯渇し、ECBの支援を受けられなければ破綻し、それがギリシャ国内の金融危機になるでしょう。
さらに、国民や企業はできるだけ多くのユーロを海外に事前に送金し、できなければ米ドルに替え、それも無理ならありったけの借金をしてでも金地金、小麦、ガソリンといったモノに替えようとするとするはずです。ところが、海外業者は新ドラクマへの切り替えを恐れてギリシャに現金でしか輸出しなくなります。こうしてギリシャ国内で物不足が深刻になり、ギリシャから経済難民がEU各国に押し寄せるはずです。
最も大きな問題は国や企業のユーロ建ての債権・債務です。無理やり新ドラクマに切り替えると多くはデフォルト扱いになり、そうでなくとも新ドラクマが暴落するのでユーロで見ると価値が激減します。ユーロ建てのままにすると、新ドラクマは暴落することが必至なのでギリシャ国家だけでなくギリシャ企業の多くも支払いができず、いずれにしろ破綻することになります。
ギリシャがユーロから追い出されて(一時的に)溜飲を下げるのはドイツぐらいのもので、脛に傷を持つスペイン、イタリア、ポルトガルなどから「次はどこ?」と疑われ、周縁国の国債が再び暴落(金利急騰)し、金融取引にも支障がでて景気回復の妨げとなるでしょう。
こうして、ギリシャのユーロ離脱はギリシャ内の大混乱を招くだけでなく、ユーロ圏の銀行や企業だけでなくECBやIMF自体も巨額の損失を蒙り、再びユーロ危機が訪れると予想されます。
投資を考えるなら、このシナリオならユーロは米ドルに対しても円に対しても暴落する可能性があるので米ドルロング・ユーロショート、日本円ロング・ユーロショート、eワラントならユーロプットの買いが効果的と考えられます。また、株価にもマイナス要因となるため、NYダウプット、日経平均マイナス3倍トラッカーの買いも一案と言えるでしょう。

シナリオ2)ギリシャがデフォルトとユーロ圏残留を一方的に宣言?

ギリシャは2012年2月に既にデフォルトしています。ただこの時は、国債の債務を減免する債務交換が秩序だって行われたものでした。
今回は“怠け者”への支援を嫌う他国の国民感情もあり、ギリシャはユーロ圏諸国からの支援がないまま一方的に“全国家債務のデフォルトとユーロ残留を宣言する”可能性も全くないとはいえません。この場合、ギリシャは国債の発行が事実上できなくなるので、公務員の給与や年金などを擬似通貨といえる“クーポン”で支払うようになるでしょう。
ギリシャの人口は1100万人と決して小さくはありませんが、5億人のEUから見れば2%に過ぎません。経済規模はEU全体の1.4%で、ドイツと比べると6%、日本の都道府県でいえば神奈川県より小さく埼玉県や千葉県よりは大きいといった感じです。
アメリカや日本でも地方自治体レベルの破綻はありますし、EUを一つの国と考えるならその中でギリシャが破綻しても、“自治体の破綻のようなもの”といえなくもありません。
実際、ギリシャのチプラス政権が求めているのは破綻している事実を前提に、会社更生法や民事再生法のような借金の大幅減免を要求しているだけともいえます。また、地方自治体の破綻で自動的に地域金融機関が破綻する訳ではないので、ECBが支援している限りギリシャの銀行も潰れることはありません。
一方で、地方自治体が破綻すると通常は国によって厳しい財政支出縮減策が採られます。ギリシャが財政緊縮継続を拒否しつつ、擬似通貨を発行してやりすごそうとしているとなると、再びEUが想定していない事態になります。懲罰的にギリシャをユーロ圏から切り離すことが可能なのか、ギリシャの民間銀行への支援をECBが継続するべきかどうか、を巡って議論はなかなかまとまらないでしょう。
また、ユーロ内格差問題を根本的に解決するためには、“豊かなユーロ中心国”からの税収を地方交付税交付金のような形でユーロ周縁国に還元する仕組み、つまり財政政策の統一が必要という建設的な議論も、ギリシャ政府が非協力的な場合は起こりようもありません。
とすれば、2010年から2012年のようなユーロの混迷となる可能性が高くなります。
シナリオ1ほどではないものの、ユーロは米ドルと円に対して下落すると予想されます。米ドルへの投資に加えて、通貨全体への懸念が広がると考えるなら金ETFや金コールなどへの投資も効果的と思われます。

シナリオ3)ギリシャはデフォルト回避し、ユーロ残留

ギリシャがユーロを離脱しても、一方的なデフォルトを宣言しても、ギリシャにも他のユーロ圏諸国にとっても良くない結果になることは自明といえます。だからこそ、ユーロ圏諸国はわがままとも思えるギリシャの主張に時間をかけて付き合い、ギリシャのチプラス政権も土壇場になると喧嘩腰の財務大臣を担当からはずすなどして妥協してきています。
そうなると、ギリシャにとっては金融支援を得て、債務をさらに一部だけでも削減してもらうこと、ユーロ諸国にとってはギリシャに(一部緩和しても)緊縮財政を継続する意思を示してもらう“欧州的な解決”が得策といえます。
これではギリシャの放漫財政は直らず、為替レートによる調整も行われず、ユーロ圏の財政政策の統一と再分配制度もできないので、数年後に再びギリシャやスペインなどの他の周縁国で債務危機が再発することは必至と思われます。しかしながら、当面の危機は去り、ユーロの懸念材料はしばらくなくなります。なお、これによりドイツは他国のための税収負担をすることなく、割安なユーロのメリットを受け続けるので、実はドイツにとっても悪い話ではありません。
このシナリオであれば、実質的には問題の先送りなのですが、当面の懸念はなくなるのでユーロコール、引き続き割安なユーロのメリットを享受すると思われるドイツ株の米国預託証書(ADR)などへの投資が有効と思われます。

(念のため付言しますと、上記は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。)
eワラント証券 チーフ・オペレーティング・オフィサー 土居雅紹(どい まさつぐ)


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