ファットテール・イベントに備えるには (2016/02/01)

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土居雅紹のコラム。株式、為替、コモディティ相場のトレンドや、今後想定されるシナリオと投資戦略。eワラントはもちろん、他の金融商品を使った投資戦術などをお届けします。

ファットテール・イベントに備えるには (2016/02/01)

年明けから世界各国の株式・外国為替市場は、調子が悪い車のようにガタガタ揺れ始めました。これは大相場が下落トレンドに入る過程では珍しいことではなく、大幅な調整が「もしかしたら」から「いよいよ」となってきたことを示唆するものと思われます。

荒れ相場に入ると、「まず、ありえないだろう」と思っていた「ファットテール・イベント」が実際に発生しやすくなります。これらは、現段階でリスクが想定されていない「ブラックスワン・イベント」とは異なり、準備しようと思えばできるイベントです。そこで、近い将来に起こりそうなファットテール・イベントに備える方法を考えておきましょう。

■下げ相場が始まると、“ノッキング”を起こしてガタガタ揺れる

大相場が下り坂にさしかかると、急騰・急落を繰り返し、その振幅幅も次第に大きくなる傾向があります。ちょうど、調子が悪くなったクルマが、最初はカタカタ、そのうちガタガタしはじめ、とうとうガックンガックン走るようになってしまうようなものです。こういった場合、車なら早めに修理すればなんとかなりますが、カオス理論が支配するマーケットでは各国政府や中央銀行をもってしても、相場の変動を抑え込むことはできません。

図1は1980年代末の日本の株・不動産バブル崩壊前後の日経平均と二つのボラティリティ(日中の高値と安値の差/終値、前日比騰落率の標準偏差10日移動平均を年率換算)を見たものです。日経平均(図中青線)がピークをつける1989年末までは、日中の値動き(図中赤線)のボラティリティも、前日終値からの騰落率のボラティリティ(図中きみどり線)も低位にとどまっていました。それが1990年に入ると日中でも終値ベースでも値動きがだんだん大きくなっています(図中オレンジ矢印)。なお、日中の値幅よりも終値ベースの値動きの方が大きくなっているので、大きなギャップアップ、あるいはギャップダウンを伴っていたことが分かります。また、その後も高いボラティリティが長期間継続していることから、相場の下降トレンドが顕著になってからも一方向に下げるのではなく、大きく上がったり、下がったりを繰り返していたといえます。

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■これから相場の振幅が拡大する?

図2は、サブプライムバブル崩壊直前の2007年から2016年1月15日までの日経平均とボラティリティの推移を見たものです。これを見ると、全体的に日経平均のボラティリティの水準が高くなっているものの、相場が大きく下落し始めるとしばらく日中(図中赤線)も前日比(図中きみどり線)もボラティリティが高い状態が続いていました(図中オレンジ色矢印)。特に2007年初めから2008年末のリーマンショックにかけては、波状的にボラティリティの水準が切り上がりました。

また、2013年5月に、FRBのバーナンキ議長(当時)が量的緩和政策の縮小を示唆して株価が暴落したバーナンキ・ショックの際(図中紫矢印)にも、ボラティリティの水準が跳ね上がりました。しかしその後は、ボラティリティの水準は振幅がありながらも下がりつつありました。

ところが2015年夏以降(図中赤矢印)は再び、ボラティリティのトレンドが上向きになり、相場がガタガタ言い始めたように見えます。

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■ありそうも無かったイベントの発生確率が上がる?

仮に、相場のボラティリティが拡大する局面に入ったとすれば、これは一直線に相場が下落することを示唆するのではなく、上にも下にも値動きが大きくなったことになります。一言で言えば「荒れ相場」です。

図3は「サブプライムバブル崩壊前(2005年1月~2006年12月)」、「サブプライムバブル崩壊期(2007年4月~2009年3月)、「直近2年(2014年2月~2016年1月15日)」の日経平均の日次騰落率の分布です。

これを見ると、サブプライムバブル崩壊前や直近2年では、±1%以内の山が高く、1日で5%を超える上昇や下落はほとんどありません。一方、相場のボラティリティが上昇していたサブプライムバブル崩壊期では、1日で14%上昇したことも、12%下落したこともあります。こういった分布図の両端にあるような極端な事象を、分布の端が太いことから「ファットテール」と呼び、それらを引き起こすようなイベントは「ファットテール・イベント」と呼ばれます。

ファットテール・イベントは、通常の状況では発生確率が極めて低いと思われているイベントです。しかし、市場全体のボラティリティが上昇する荒れ相場になると、実際にそれが発生するのです。

具体例を挙げるなら、1992年の「ポンド危機」では、イギリスの中央銀行がジョージ・ソロスのヘッジファンドに敗れてポンドが暴落、ERM(欧州為替相場メカニズム)から離脱しました。 また、1998年にはノーベル経済学賞を受賞した学者が作り、“確実に儲かる”と思われていたヘッジファンド(LTCM)がロシア危機の余波で破綻しています。また、サブプライムバブル崩壊時には、米国の巨大投資銀行の一角であったリーマンブラザーズが破綻しました。さらに驚きだったのが、2001年3月~2006年3月まで日銀が行っていた量的緩和政策を強く批判してきたFRBが、2008年秋に自ら量的緩和政策を導入したことです。これらはすべて、通常の経済環境では「まず起こることはない」と思われていたイベントでした。

そう考えるなら、これから数年間は、「まずありえない」と我々が思っていることが起きる可能性が高くなると予想されます。

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■ファットテール・イベントとブラックスワン・イベントは違う

発生確率が極めて低いファットテール・イベントと同様に扱われることが多いものの、若干異なる事象にブラックスワン・イベントがあります。両者の違いは、前者は「発生確率が低く、市場へのインパクトが大きいイベント」、後者は「大多数の市場参加者にとって想定の範囲外で、リスクすら認識されていない大イベント」という点です。簡単に言えば、「まず起こることはないだろう」がファットテール・イベント、「考えたことも無い」というのがブラックスワン・イベントです。

例えば、「原油暴落」、「イラン核合意」、「中国株の暴落」、「人民元切り下げ」などは予め可能性については広く指摘されていたので、ファットテール・イベントとなります。一方、「東西ドイツ統一」、「ソビエト連邦の崩壊」、「エボラ出血熱大流行」、「2011年の日本の原発事故」などは、ごく一部の専門家を除き、当時の大多数の市場参加者には可能性が認識されていなかったことから、ブラックスワン・イベントといえるでしょう。

なお、ブラックスワン・イベントが起こると、同種のイベントの発生可能性が改めて認識されることもあります。「中国共産党政権の崩壊」はかつてはあり得ないと思われていましたが、「ソビエト連邦の崩壊」、や「アラブの春」が現実のものとなった現在では、全く可能性がないと考えることはできません。また、2011年以降日本周辺の近くの地殻の活動が活発になったことから、首都直下型地震、東海・南海・東南海地震や富士山の噴火の可能性を想定しないことは現時点では非現実的な想定となるでしょう。

さらに、多くのファットテール・イベントは、自然災害などを除けばすべて人間の行動に起因しています。このため、各国の経済状況が悪化すると発生する可能性が増すと思われるイベントが多くなります。

そこで、近い将来するかもしれないファットテール・イベント、今のところ発生可能性がほとんど議論されることがないブラックスワン・イベントを挙げておくなら、以下のようなものがありそうです(すべてを網羅しているわけではありません)。

◎近い将来発生するかもしれないファットテール・イベント(例)

・イギリスがEUから離脱する
・スコットランドが独立する
・中国共産党の一党独裁が終焉する
・日本で大手金融機関の不良債権が懸念され、再び金融危機が起こる
・原油価格が数年以内に100ドルになる、あるいは10ドル台に下落する
・円が暴落して1ドル200円になる、あるいは再び1ドル80円の超円高になる
・日経平均が1万円に下落する
・アメリカや日本がAIIBに加盟する
・世界のどこかで再び大規模な原発事故が発生する
・欧州へのイスラム難民が欧州人口の多数派になる
・韓国から在韓米軍が撤退する
・強毒性鳥インフルエンザのパンデミックが発生する
・日本で首都直下型地震が発生する
・台湾、フィリピン、タイ、韓国がTPPに加盟する
・東京で大規模なテロ事件が起きる
・トランプ氏が米国大統領になる

◎(ありえないと多くの方が考えていそうな)ブラックスワン・イベント(例)

・直径数十メートルの隕石が世界の主要都市に落ちて甚大な被害が出る(なお、NASAによると恐竜が絶滅したような巨大隕石の地球衝突は100年以内はないそうです。詳しくは http://neo.jpl.nasa.gov/risk/#legend 、ただし、2013年にロシアに落ちた直径数十メートル程度だと予測不能ですが、直撃すれば核爆弾並みの被害がありえます)
・医療が診断AIと手術ロボットだけで行われる
・限定的な核戦争が起こる
・南北朝鮮が統一される
・チベット、ウイグル、内モンゴルが中国から独立する
・核保有国が核廃絶に合意する
・南極で金の大鉱脈が発見される
・米ドルが金本位制に戻る
・太陽からの磁気嵐で世界中の通信が麻痺する
・低コストの人口光合成技術が確立し、農産物の生産がほぼ無限大となる
・老化防止薬が発明され、年金制度が破綻する
・地球外生命体が発見される

■ファットテール・イベントに備える

ブラックスワン・イベントはその定義からして何が起こるか分かりません。また、現時点では発生する可能性がゼロに近いと考えられているイベントです。このため、仮に何か準備しておくにしても、「水と食糧の備蓄をする」、「半年分の生活費はキャッシュで温存しておく」、「投資対象国や企業を集中させない」、「投資戦略を分散する」といったことしか備えようがありません。

一方、ファットテール・イベントは低確率ではあっても発生可能性が認識でき、それによる影響も想像できます。このため、今できる準備をしておかないのは、雨の日に傘を持たないで出かけるようなものです。特にバブル崩壊期のように市場全体のボラティリティが増していく局面では、突発的なイベントに伴うショックに耐えることを考えておく必要があります。具体的には、下記のような対応策があると思われます。

◎日経平均やハンセンH株指数のプットeワラントを保険代わりに保有する
理由:総資産の数%の金額分購入し、下落リスクの一部をカバー
◎個別銘柄の保有が多ければまとめて売却し、株価指数ETFやパッシブ投信に変える
理由:塩漬け期間中の倒産リスクをなくしつつ、アップサイドを狙う
◎20:80戦略を使う
理由:資産の2割で損失限定のハイリスク投資(レバレッジトラッカー、レバ投信、レバETF、eワラントコール、新興市場株など)、8割は預貯金やMMFで保全
◎オプションの売りポジションがあれば手仕舞う
理由:荒れ相場ではオプション売り戦略は大負けする可能性が高いので
◎FXを使うならレバレッジを下げる
理由:外国為替相場の乱高下でロスカットされないため
◎アノマリーで悪いイベントが起きやすい5月から10月はノーポジにする

(念のため付言しますと、上記は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。)
eワラント証券 チーフ・オペレーティング・オフィサー 土居雅紹(どい まさつぐ)


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