中国の尖閣攻勢にどう備えるか(2016/08/22)

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土居雅紹のコラム。
株式、為替、コモディティ相場のトレンドや、今後想定されるシナリオと投資戦略。eワラントはもちろん、他の金融商品を使った投資戦術などをお届けします。

中国の尖閣攻勢にどう備えるか(2016/08/22)

8月5日に200-300隻もの海上民兵をのせた中国“漁船”が尖閣諸島沖の接続水域に現れ、それに随行する中国公船3隻が日本の領海に侵入しました。日本政府がこれに抗議すると中国は中国公船による領海侵入を7日に11隻、9日には10隻と増やし、その後も接続水域にとどまって圧力をかけ続けているようです。

今回の中国の一連の挑発行為は、日本国内の対中感情を悪化させ、防衛力増強、憲法改正、日本から中国への投資減少をもたらす可能性があり、中国の長期的な国益に沿わないように思われます。とはいえ、外から見ると不合理な行動も、当事者にとってはより優先度が高い別の理由があるものです。そこで、中国の真の目的を探り、どういった事態を予想しておくべきか考えておきましょう。

■中国の長期戦略

南沙諸島における人工島建設で見られるように、中国は「力こそ正義」、「現在の国際秩序は西洋列強が中国が弱い時に作ったものだから、中国が強大なった今こそ修正すべき」という20世紀型帝国主義的な主張を積極的に発信しています。

中国は自らを“平和愛好国”と宣伝してきたものの、現実の歴史をみるとかなり違います。1949年の国共内戦に勝利して中華人民共和国を建国して以来、ウイグル侵攻(1949年)、チベット武力併合(1950年)、朝鮮戦争参戦(1952年)、台湾と武力衝突(1950-60年代)、チベット蜂起を武力鎮圧(1950-1976年で犠牲者120万人とも)、中印国境紛争(1962年)、中ソ国境紛争(1969年)、南ベトナムから西沙諸島を武力で奪取(1974年)、中越戦争(1979年)、統一ベトナムからジョンソン南礁(南沙諸島)を奪取(1988年)、天安門事件(1989年、デモ学生を武力鎮圧)、フィリピンからミスチーフ礁(南沙諸島)を強奪(1995年)、ブータン北部地域を侵略(2000-2006年)、ウイグル騒乱鎮圧(2009年、死者600名とも)、と周辺国との軍事紛争や国内での武力鎮圧を繰り返しています。

また、海洋進出に関しては、台湾併合が国家目標であることに加えて、1992年に領海法を制定して尖閣諸島、南沙諸島、西沙諸島を一方的に全て中国の領土と定め、それに向けて空母を建造(2012年)し、海警局(2013年、日本の海上保安庁に相当)を創設しました。軍艦から砲塔をはずして白く塗って“巡視船”を急ごしらえするとともに、新造船も急ピッチで増やしています。この結果、大型巡視船は2012年の40隻から2015年末には120隻となり、2019年には135隻に増強される見込みです(出所:外務省HP)。さらに、南沙諸島では2013年から大規模な人工島を建設し、軍事基地化を進めています。

■想定1:日本の外交政策への圧力が目的

中国では、南シナ海の中国の海洋進出に関するオランダ・ハーグの仲裁裁判所での “完敗”の背後に日本政府の暗躍があるという見方が根強いようです。南シナ海に関する中国の立場は、「日本や米国は当事者ではない」というものです。このため、7月半ばにモンゴルで開催されたアジア欧州会議で安倍首相が南シナ海問題に言及して議長声明に盛り込まれたこと、7月後半のアセアン外相会議と日中外相会談で岸田外相が南シナ海の仲裁裁判の判断受け入れを中国に迫ったことに、中国政府は相当不満を募らせたと言われています。

また、日本が米国の力を借りて、フィリピン、ベトナム、インドと対中包囲網を構築し、台湾独立を志向しているとされる蔡英文総統やウイグルやチベットの独立運動を日本が支援している、とも中国政府指導者や軍部は考えているようです。加えて、8月初めに出された日本の防衛白書では中国の海洋進出に強い懸念が明記された上に、日本の内閣改造で政治信条が安倍首相に近いとされる稲田氏が防衛大臣に就任したため、新任の防衛大臣に揺さぶりをかけてきた可能性もあります。

この見方を裏付けるのが8月6日の中国外交部報道官の「中国側は関係する海域の事態を適切にコントロールしている。日本は情勢の緊張と複雑化を招くいかなる行動も取るべきではない。関係海域の安定のために共に建設的な努力をすべきだ」という発言です。平たく言うなら「中国は日本の外交活動への抗議として今回の行動を計画的に行った」という意味に解釈することができます。

このように日本への外交圧力がここ数週間の尖閣諸島周辺での中国の活発な動きの目的であるなら、まずは「9月4日から5日に中国杭州で開催されるG20サミットで日本が中国の海洋進出について言及しないこと」を求めているといえるでしょう。この場合、日本が外交取引に応じなければ、“報復”として9月中旬にも海上民兵(武装漁民)の尖閣上陸があるかもしれません。ただし、日米安全保障条約が存在する限り中国は米軍の関与を招く自衛隊との軍事衝突を避け、海上民兵による短時間の上陸に止めておきそうです。とはいえ、これから何年にも亘って海上民兵による尖閣上陸を繰り返すことになるでしょう。

■想定2:経済より政治優先、米国関与がないと思えば尖閣侵攻

尖閣諸島はもともと無人島で、太平洋戦争前は日本人が数百人規模の鰹節工場をおく程度の存在でした。当時の歴代の中国中央政府(清・中華民国・中華人民共和国)はいずれも尖閣諸島が日本の領土である事を認めていました。しかし、1968年に海底油田の可能性が指摘されると、1971年の沖縄返還の直前から中華人民共和国と台湾(中華民国)がともに「先に見つけたのは自分たち」と主張しはじめ、現在に至っています。ちなみに、無人島に関して国際法上は先占(先に見つけて実効支配する)が争点となります。この点において、「戦前の近代的な実効支配は日本が行っており、沖縄返還とともに日本に返還された」と主張する日本に国際法上は利がありそうです。

しかしながら、中国の隣国に対する今までの軍事行動を考えると、国際法よりも自国の論理を優先しています。このため、数十年単位で見れば、中国の尖閣諸島軍事侵攻は実行時期だけの問題といえそうです。ここで注目すべきことは、1974年のベトナム戦争末期に南ベトナムから西沙諸島を奪い、1988年にソ連の後ろ盾を失った統一ベトナムからジョンソン南礁(南沙諸島)を奪取、1995年には米軍撤退後のフィリピンからミスチーフ礁(南沙諸島)を強奪したという軍事侵攻のタイミングです。これらに共通しているのは、相手が米ソの後ろ盾を無くして弱体化した時期という点です。これを尖閣諸島に当てはめると、米軍が出てくると思えば中国は尖閣諸島に軍事侵攻せず、来ないと思えば今すぐにでも武力侵攻がありえることになります。

図1は中国の尖閣諸島周辺の中国公船の行動をみたものです。2010年の中国漁船体当たり事件後に接続水域内に公船を進入させ始め、2012年の尖閣諸島のうち3島の国有化後は領海・接続水域内ともに進入回数を急増させています。ところが、2012年12月に米国上下両院で尖閣諸島を日米安保条約の適用対象と明記した法案を可決すると、中国公船による領海侵犯は激減しました。また、2014年4月にオバマ大統領が訪日時に尖閣諸島への安保適用を確認するとともに、日本の施政権を確認しつつも、日中の領土問題に対する態度をあいまいにして中国への配慮を示してからは小康状態が続いていました。

doi-20160822-1

この見方を裏付けるように、今回の中国“漁船”の大量投入と中国公船による連続領海侵入には伏線がありました。6月9日に尖閣諸島接続水域に中国軍艦が初めて進入し、また15日には口永良部島の領海に中国海軍の情報収集鑑を進入させています。また同月17日には中国軍機が尖閣諸島付近で航空自衛隊機と交戦直前だったという報道もありました。これらは南沙諸島を巡るオランダ・ハーグの国際仲裁裁判所の審決が出る前でした。そうなると、中国の尖閣諸島での行動に影響を与えたと考えられるのは、日米安保見直しを唱えるトランプ共和党大統領候補の躍進であった可能性が高いと考えられます。

この見方に沿うなら、オバマ大統領の退任間際までは断続的に日本への圧力を強めて米国の反応を探り続け、もし2017年1月にトランプ大統領誕生となって「米国は東シナ海の無人島のために戦うことはない」といった趣旨の発言があれば、即座に尖閣諸島に軍事侵攻し、日中軍事衝突となる可能性がありそうです。

■想定3:中国国内の引き締めに利用しているだけ?

中国では7月下旬から8月にかけて「北載河会議」が開催されていたようです。これは非公式ながら毎年夏に中国河北省の避暑地「北載河」に共産党の長老と現指導者が集まって重要な政治決定を行うもので、極めて重要な会議と考えられています。

その会議では自身への権力集中を進める習主席と、江沢民派や共産党青年団との熾烈な権力闘争が行われているものの、習主席は南シナ海を巡る仲裁審決での完敗、北朝鮮の度重なる核実験、在韓米軍基地への高高度防衛ミサイル(THAAD)配備と外交面での失敗が目立ち形勢が不利になっているとか。さらに中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)を支援し、中英蜜月を演出した英国のキャメロン首相は去り、中国経済は巨大な不良債権の重みで身動きがとれず、これも習氏があせる要因となっています。

そこで、軍部を後ろ盾とする習主席が、外交成果をあげるためにASEANをまとめて敵に回す南シナ海では懐柔策を示しつつ、「外交ルートでの抗議しかできない」日本に対して東シナ海で攻勢を強めているというのが、中国の国内事情を主因とする見方です。

これと整合性があるのが、8月9日の在日本中国大使の「当該海域は漁船の活動が増えていて、その関連の指導、事態の複雑化にならないよう中国側が努力をしていることを理解してもらいたい」という発言です。これを好意的に解釈するなら、「こっちの国内事情を察して、日本政府はことを荒立てないで欲しい」ともとれます。

さらに中国は8月中旬に予定していた孔外務次官補の訪日を取りやめ、その理由を「尖閣諸島沖での中国公船の活動に、日本が再三抗議したこと」としていることも、自ら挑発して日本との対立を演出し、国内政治に利用している意図を裏付けるものと考えられます。

実際、この見方には合理性があります。日本と武力衝突した場合、米軍が出てくれば中国に勝ち目が無く、日本単独でも中国が必ず勝てるとは限りません。もし局地戦で負ければ習主席の国内基盤が弱体化し、共産党への国民の不満が高まる恐れがあります。仮に日本に軍事的に局地戦で勝ったとしても、日中国交断絶を招いて経済的な打撃が大きくなるだけでなく、日本国内の親中勢力は一掃され、日本は平和憲法を放棄して軍事費を倍増し、中国は自ら軍事的な脅威を隣国に作り出してしまうことになります。さらにクリミア半島併合でロシアが受けたようなG7の経済制裁を受けることになれば、中国経済への打撃は破滅的となり、中国の長期停滞を決定づけるものとなりそうです。

このため、今回の中国の尖閣諸島での挑発行為が国内事情によるものなら、公船による領海侵入を今まで以上に頻繁に行う程度に止めるものと予想されます。

■投資に活かすには

中国公船による尖閣諸島の領海侵入が頻繁に繰り返されるようになったため、株式も為替も慣れてしまい、ほとんど反応しなくなっています。これには、中国も日本も軍事衝突は避けるだろうという暗黙の前提があると考えられます。しかし、思い込みで準備を怠るのは危険です。

中国の国内事情による“ポーズ”ならそれでも問題ないのですが、外交圧力のつもりなら「海上民兵の短時間上陸」までは十分あり得ますし、長期戦略に基づいて一歩コマを進めてきたのであれば「軍事侵攻」まで覚悟しているかもしれません。

また、かつては日本の関東軍がずるずると戦線を拡大して日中戦争が始まり、米国はベトナム戦争に宣戦布告が無いまま関与を深め、ソ連はアフガニスタンで泥沼にはまり、数週間で終わるはずのイラク戦争が現在のISによるテロにつながっているなど、各国指導者の読み違いが戦争につながることは歴史上しばしば繰り返されています。さらに、第二次大戦前のナチスドイツによるチェコスロバキア解体に対して、戦争回避のために宥和的な対応をとったイギリスの対応が結果としてドイツの帝国主義政策を助長し第二次世界大戦につながったように、「日本は何をしても外交上の抗議しかできない」と中国が思っているとすれば、度を越した挑発となるかもしれません(もし、ロシアが実効支配する北方領土の接続水域に日本が200隻武装漁船を送り込んだり、日本の公船が領有権を主張して領海に侵入させたりしたらどうなるか想像すれば、日本の対応がいかに宥和的か分かります)。

そう考えるなら、中国が海上民兵を上陸させるだけのつもりでいても、当初から軍事侵攻を考えていたとしても、最悪の結果は、「自衛隊が防衛出動し、それに対抗して中国軍が“漁民保護”の名目で展開して軍事衝突が起こる事態」といえます。

投資格言では、「遠くの戦争は買い」で、逆を言えば「近くの戦争(=戦争当事国)は売り」です。ことの是非は別として、この格言は、日本が第一次世界大戦や朝鮮戦争の特需で好景気となったことと整合性があります。以上を考慮して尖閣諸島での中国の行動に関して投資における対応を考えるなら以下のようなものになりそうです。

◎9月の中国杭州G20サミットで南シナ海問題で中国が矢面に立つことなるか、11月の米大統領選でトランプ氏が勝利したら、日本株と中国株の保有額を少なくとも半分程度まで減らしておく。

◎中国“漁船”が大挙して領海侵入したり、中国軍機の領空侵犯という一段上の挑発に進んだら、数週間程度の期間は日経平均プットやハンセンH株プットの買いで日中株暴落への保険をかけておく。米ドル高円安、金価格上昇も予想されるので米ドルコール買いや金コールの買いも一案。

◎自衛隊が防衛出動する事態となれば、日米欧の軍事産業関連株の買い(日中の武力衝突が回避できたとしても、東アジアと東南アジアでの軍拡競争が激化することが予想されるため)。

◎中国の軍事行動に対してG7諸国の経済制裁があると考えるなら、これによって発展が加速する可能性があるインド、ベトナム、バングラデシュ、フィリピンへのETFなどでの投資が効果的。逆に、対中輸出が多いオーストラリア、台湾、韓国、日本、ブラジル、タイ、マレーシアは悪影響が大きいのでポジション減額を検討。

(念のため付言しますと、上記は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。)
eワラント証券 チーフ・オペレーティング・オフィサー 土居雅紹(どい まさつぐ)


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