「マイナス金利で株価下落」の真犯人は米国利上げか?(2016/09/05)

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土居雅紹のコラム。
株式、為替、コモディティ相場のトレンドや、今後想定されるシナリオと投資戦略。eワラントはもちろん、他の金融商品を使った投資戦術などをお届けします。

「マイナス金利で株価下落」の真犯人は米国利上げか?(2016/09/05)

前回の分析結果は、「日本経済は穴の開いた風船のような状態で、注ぎ込まれたお金が抜け出てしまっているかもしれない」、また、「日銀会合で金融緩和策が打ち出されても効果が持続するのは1ヶ月間だけ」というものでした。

一方、誰の目から見ても影響が顕著であった「英国のEU離脱ショック」や、世界全体に影響を与える米国の利上げなどの影響を差し引かないと、日銀の金融緩和策が株価や為替相場にどの程度の影響を与えていたのかどうか分からなくなります。また、金融緩和策といっても内容は様々で、具体的にどれが過去に効果が顕著だったのかも見ておく必要がありそうです。

■日本経済は穴が開いた風船?:マネタリーベースが増えても円高株安

図1は前回のコラムで指摘した「日本経済は穴あき風船かも」という状況を再確認するためのものです。マネタリーベース(市中に出回る紙幣・貨幣と金融機関が日銀に預けているお金の合計)を増加させる金融政策実現の可能性が高まった2012年末から円安株高が進み、2013年4月に「量的・質的金融緩和」(いわゆる異次元緩和)が始まるとその動きは加速しました(図中緑線)。2014年4月の消費税引き上げで景気に冷や水を浴びせる結果となったため、一旦流れが止まりましたが、その後の追加緩和で再びトレンド継続となりました。

ところが2015年初めから徐々に“神通力”が落ち、2015年9月からはマネタリーベースの増加にも関わらず円高株安となっていました(図中黄色線)。これがまさに「穴が開いた風船」という状況で、お金を日本経済にどんどん流し込んでいるのにそれが外にもれ出てしまっているかのようです。

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■日経平均への影響:“マイナス金利失敗”は早計?真犯人は米国利上げ

巷では「日銀の金融緩和は効かない」とか、「ETF買い入れの効果は絶大」など様々な見方があります。実際、日銀が金融緩和策をとるといってもマイナス金利とETF買い入れでは直接的な影響を与える対象が異なり、株価への影響の効果も時間軸(タイムラグの有無やどの程度の期間有効かなど)も異なります。
そこで、2012年から2016年7月までのアベノミクス開始以前からの日銀の金融緩和策を分類し、イベント当月から5ヵ月後までの影響を調べてみました。また、政策ではなく実際のマネタリーベースの増減額も併せて分析対象としました。さらに、為替相場・株式相場に影響が大きなイベントやショックも無視できないと考えられたので、同期間の米国の量的緩和縮小や利上げ、日本の消費税引き上げ、英国のEU離脱に関しても当月から5ヵ月後までの効果を探ってみました(下記項目)。

◎日銀の金融政策決定会合での金融緩和策
・資産買い入れ基金の増額
・物価目標の設定/修正
・国債買い入れ増額
・ETF買い入れ決定/増額
・REIT買い入れ決定/増額
・マイナス金利導入
・米ドル資金供給決定/増額

◎実際のマネタリーベースの変化
・マネタリーベース総額(期中平均)の増減(金額)
・マネタリーベース総額(期中平均)の変化率

◎日本の金融政策の実効性への影響が大きいと思われる要因
・FOMC(米国連邦公開市場委員会)における量的緩和縮小決定
・FOMCにおける利上げ決定
・消費税引き上げ
・英国EU離脱(国民投票)

これらのうち「物価目標の設定/修正」は実施当月に8.3%もの株価上昇効果(信頼度96%)が確認されましたが、「資産買い入れ基金(での増額)」や異次元緩和以降の「国債買い入れ増額」、ETFやREIT買い入れ、消費増税については、今回は日経平均への有意な影響は見出せませんでした。マイナス金利に関しては、国内要因だけで分析した場合は株価押し下げ効果があるように思われましたが(前回コラムで指摘)、今回米国の利上げを分析対象とした結果、「FOMC利上げ翌月は9.4%日経平均押し下げ効果(信頼度90%)、2ヶ月には9.9%もの株価押し下げ効果(信頼度96%)」がある可能性が分かりました。つまり、「マイナス金利のせいと思っていた株価下落が、実は米国FOMC利上げがジワジワ効いた結果だった」という可能性があることになります。さらに、自明ではありますが、英国のEU離脱イベントは11.1%の株価下落効果(信頼度96%)でした。

これらのイベント(物価目標、FOMC利上げ、英国EU離脱)を日経平均の値動きとあわせてみたのが図3です。物価目標を定めたり、1%から2%に引き上げたりした時は、図からも顕著なプラスの株価への影響が見てとれます。FOMC利上げと英国のEU離脱は逆にガツンと日経平均を押し下げています。参考までに、一見すると株価に直接的に影響を与えていそうな日銀会合におけるETF買い入れ増額決定は日経平均上の四角点で表しています。今回の分析では株価への影響が確認できなかったのですが、チャートでも影響の有無が分かりにくいものとなっていました。

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■米ドル/円相場への影響:国債買い入れは為替相場に効く

同様に米ドル/円への影響に付いても同じ項目で調べてみた結果、下記のような結果となりました。

◎影響あり:物価目標発表・修正の当月(4.8%ドル高円安、信頼度99%)、国債買い入れ増額の翌月(3.9%ドル高円安、信頼度96%)、英国EU離脱の当月(7.1%ドル安円高、信頼度99%)

△影響があるかも:FOMC利上げの(なぜか)2ヵ月後(7.3%ドル安円高、信頼度99%)

×おそらく影響なし:金融機関への米ドル供給、資産買い入れ基金、ETF・REIT他

ここでも物価目標の設定や修正はドル高円安効果が大きいことに加え、日経平均への影響は確認できなかった国債買い入れ増額がドル高円安効果がある可能性が高いということが分かりました。なお、米国の利上げに関しては日経平均と異なり、当月や翌月には顕著な影響は見出せませんでした。ただ、その2ヵ月後がドル安円高が進展した時期と重なっていたため、直感とは逆に「2ヵ月後にドル安円高の影響がありそう」と出ました。実際には他の原因である可能性も残りますが、利上げで米国の景気が落ち込んだり、新興国からの資金引き上げが懸念されたりして、回り回って2ヵ月後にドル安円高方向に作用したという可能性もありそうです。

図3は日銀会合で「物価目標に言及」した時と「国債買い入れ増額」が決まったタイミング、FOMC利上げ、英国EU離脱を、米ドル/円レートの値動きと比較したものです。物価と国債はドル高に効き、英国EU離脱は直後に、米利上げはジワジワドル安円高に効いていたという分析結果と違和感が無いものになっています。

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■投資に活かすなら

日銀による金融緩和策の中でも大きな方針転換を示した「物価目標の設定」やその引き上げが特に効果的であったとするなら、今後どこかのタイミングで、仮に「物価目標の引き下げ」や「達成時期の数年間先送り」というま逆の動きがが決まれば、急激な株安円高をもたらす可能性があります。

また、為替相場に関しては国債買い入れ増額のドル高円安方向への影響が顕著であったことから、今後国債在庫払拭などを理由として「国債買い入れ減額」や「量的緩和の段階的縮小(テーパリング)」が日銀会合で決まれば、これも急激な円高ドル安をもたらす可能性があります。

具体的には、今後の日銀会合ではこれらのキーワードに注目して、それらが出てから日経平均や米ドルのロング/ショート、プット/コールなどで数週間程度のポジションをとっても十分に収益機会になる可能性がありそうです。

また、FOMC利上げや英国EU離脱イベントなどは、日銀の金融政策を上書きしてしまうほどの影響が確認されました。9月と12月の米国利上げの有無、11月の米大統領選挙などでは、それまでのポジションをいったん縮小して、米ドル/円や日経平均のコールとプットを用いた両建てで臨むことが一案と思われます。

(念のため付言しますと、上記は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。)
eワラント証券 チーフ・オペレーティング・オフィサー 土居雅紹(どい まさつぐ)


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