下落し始めたあの指標は相場の落ち着きを示唆か?
- 2020/4/19
- 極める

多田幸大氏のコラム。株式、為替、コモディティ相場のトレンドや、今後想定されるシナリオと投資戦略。eワラントはもちろん、他の金融商品を使った投資戦術などをお届けします。
中国・武漢市で確認された新型コロナウイルスの感染ですが、その後世界中に広がりを見せ、現在では特に欧州や米国などで深刻な感染者数の増加を記録しています。国内でも、東京都で連日100名を超える新規感染者数の増加を記録しており、7日には遂に新型インフルエンザ等特別措置法に基づく緊急事態宣言が発令されるなど、ウイルス感染拡大抑制に向けた闘いの日々が続いています。
新型コロナウイルスの感染拡大は株式市場にも大きな影響を与えています。1月には24,000円に近い水準にあった日経平均が3月中旬には一時16,000円台に急落しました。その後も、各国政府や中央銀行の景気刺激対策によって上にも下にも値幅が大きな状態が続いています。まさに「荒れ相場」と呼べる状況です。この荒れ相場はいつまで続くのでしょうか。
ほかの投資家は今の相場をどう見ている?
先の見通せない相場局面において、他の投資家がどのような相場観を持っているのかを予想するのは意義があることだと考えられます。「ほかの投資家がどのように考えているのか」を予想するには、例えば売買代金の上位銘柄や東証が発表している売買状況などを材料に想像してみるのも一手でしょう。それ以外にも「プット・コールレシオ」が投資家の相場観を想像する材料として挙げられます。
プット・コールレシオとは、オプションの取引で売る権利を意味するプットと買う権利を意味するコールの取引量を指標にしたものです。一般的に相場に弱気な投資家は相場下落時に価格が上昇するプットを、強気な投資家は相場上昇時に価格が上昇するコールを購入します。プット・コールレシオはプットの取引量をコールの取引量で割ったもので、プット・コールレシオが高い=プットを買う投資家が多い=弱気な投資家が多い、プット・コールレシオが低い=コールを買う投資家が多い=強気な投資家が多い、ということになります。
オプションを証券化したeワラントの取引においてもプット・コールレシオが算出されています。前営業日のプット・コールレシオのデータは、毎営業日更新されるデイリーウォッチ(https://www.ewarrant.co.jp/posts/dailywatch)で確認できます。また、eワラントHPでは毎営業日取引終了後に最新のデータを公開しています。
プット・コールレシオ(https://www.ewarrant.co.jp/tools/put-call-ratio/)
プット・コールレシオは取引所オプションの取引データからも算出することは可能ですが、投資家心理の転換を把握するという目的においては、次の2点からeワラント証券のプット・コールレシオに優位性があると考えられます。
- 取引所オプションには個人投資家のみならず機関投資家も参加しているため、取引所オプションの売買データを用いた場合は、個人投資家の相場観を反映しているのか、機関投資家の相場観を反映しているか不明瞭と言えます。一方、eワラントの取引の主な投資家は個人であり、eワラント証券のプット・コールレシオは個人投資家の相場観をより反映していると言えます。
- 取引所オプションにおいて、投資家はオプションの売り手にも書いてにもなることができます。同じオプションの取引でも買い手と売り手では投資家の相場観は異なっています(例:コールオプションの買い手→強気の相場観、コールオプションの売り手→横ばい~弱気の相場観)。オプションの売買が増えるということは、オプションの買い手だけでなく、売り手も増えていることになり、投資家全体の相場観を量るには適切とは言い難いです。一方、eワラントの投資家は常に買い手となりますので、投資家の相場観をより反映していると言えます(取引に応じるマーケット・メーカーが常に売り手となります)。
プット・コールレシオの見方と活用法
eワラントのプット・コールレシオはコール型eワラント(相場上昇時に利益を狙うタイプ)の売買が多いのか、プット型eワラント(相場下落時に利益を狙うタイプ)の売買が多いのかの割合を意味するもので、次の式で表されます。
プットの売買金額 ÷ コールの売買金額 (5日移動平均)
(国内株又は国内の株価指数を対象としたeワラントの売買に限ります)
この数値を下回ったら、この数値を上回ったらという判断基準はありませんが、過去の傾向を参考にすると以下のポイントが参考になるでしょう。
- 相場の高値圏ではプット・コールレシオは低くなる傾向がある
- 相場の底では、プット・コールレシオは急上昇し、鋭いピークを形成する傾向がある
- 相場の転換点は、プット・コールレシオが反対に動き始めた近辺になることが多い
この特性を踏まえてプット・コールレシオを投資に活かすのであれば、逆張り指標として使うことができるかもしれません。具体的には、以下のような投資戦略が考えられます。
- プット・コールレシオが急上昇し、ピークをつけた ⇒ 相場の底値圏と判断し、日本株相場の反発を見込んでコールを購入する
- プット・コールレシオが低い(例えば、0.1以下など)状況が続いている ⇒ 相場は過度に楽観的と判断し、数日~数週間中の下落に備えて、権利行使価格の低いプットを購入しておく。現物株を保有している場合には、手仕舞い売りをする又は当該株式や日経平均を対象とするプットを購入し株価の下落に保険を掛ける
直近の状況は?

現在のプット・コールレシオを見てみると、新型コロナウイルスの世界的拡大を受けた大荒れの相場が続く中で、3月16日の取引終了時点でプット・コールレシオは2.94と非常に高い値を記録しました。言い換えると、コールの約3倍近くプットが売買されているということになりますので、eワラント投資家の相場観はかなりネガティブに偏っていたとも言えそうです。この水準というのは大統領選挙を直前に控えた2016年10月以来となる極めて高い状況です。
しかし、そこをピークにプット・コールレシオは下落に転じ、4月14日取引終了時点では0.79と1倍を切る水準となっています。いまだ高い水準ではあるものの、相場はやや落ち着きを取り戻しつつあるということを表しているのかもしれません。いまだ新型コロナウイルスの抜本的な解決は見えていないものの、投資家の視線は「ウィズコロナ」、「アフターコロナ」による相場の緩やかな回復に移りつつあるとも言えそうです。
これを投資に活かすのであれば、中~長期的な相場の上昇を想定して打診買いをしてみるのも一手でしょう。ただし、前述の通り新型コロナウイルスの解決にはまだ時間がかかるものと思われ、新規感染者数が予想を超えて急増する可能性も否定はできません。投資可能な資金のうちごく一部にとどめておくほうが賢明と考えられます。小額で取引できるeワラントのうちコール型やプラス5倍トラッカー型のeワラントを使って、相場の上昇を投資機会としてみるのもよいでしょう。
(eワラント証券 投資情報室長 多田 幸大)
* 本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。